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横浜地方裁判所川崎支部 平成7年(ワ)608号 判決

主文

一  被告は原告に対し、一二六〇万円及びこれに対する平成七年三月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

主文同旨

第二  事案の概要

原告は、「被告は原告が経営する商業施設について出店の申込みを行い、原告と被告は右申込みから約四か月をかけて交渉を重ね、契約内容についても概ね合意に達していたのに、被告が一方的に契約締結を拒否した」と主張して、被告に対し、信義則違反または契約締結上の過失に基づく損害賠償を求めた。

一  争いのない事実

1 原告は、スーパー・小売店等の商業施設の賃貸等を業とする商人であり、被告はスーパーの経営等を主たる業とする商人である。

2 原告は、次の商業施設(以下「本件施設」という)を池栄青果株式会社(以下「池栄青果」という)に貸賃していたが、同社は平成六年七月二四日限りで撤退することになった。

川崎市麻生区上麻生一丁目所在の「マーケットプレイス27」なる商業施設の一、二階部分のうち九九九平方メートル

3 ナカ工業株式会社(以下「ナカ工業」という)の紹介により、平成六年四月九日、被告代表者と被告常務取締役西本一郎(以下「西本」という)が、本件施設を見て回った。

4 その後、ナカ工業から本件施設の「店舗出店申込書」の書式が被告に送付され、被告は、保証金五〇〇〇万円、賃料月額二一〇万円と補充記入して、これをナカ工業に送付した。

5 また、被告と池栄青果との間で、本件施設の内装設備等について買取交渉を行ったが、合意に達しなかった。その後、池栄青果は、内装設備等を撤去した。

6 同年七月二八日ころ、原告は、被告との「出店契約書」の書式をナカ工業に渡し、ナカ工業は同年八月一日ころ、これを被告に渡した。

7 その後、被告は、原告に対し、出店契約の締結をしないことになった旨述べたが、その際、取り止めの理由を被告専務取締役(西本の父)の退任という被告の内部事情であると表明した。

二  争点

1 被告が契約締結をしなかったことが、信義則違反または契約締結上の過失にあたるか

(一) 原告の主張

原告は、平成六年四月九日に被告から本件施設の賃借を申し込まれ、その後の交渉は被告代表者及び主要取締役によって行われ、同年六月二一日には店舗出店申込書を受け取り、賃料・保証金の額についても合意に達していた。また、被告は、池栄青果に対して、同社の内装設備等を撤去させた。加えて、契約条項について被告側の仲介人であるナカ工業との間において被告の意見を入れて検討を加えた上で出店契約書の書式も作成し、あとは被告の役員会にかけた上で契約締結をなすはずであった。

原告は、被告との右交渉の過程において、被告が真に本件施設に出店すると信じて、契約締結寸前であった他の出店希望者との交渉を打ち切り、被告のみを相手として契約締結の準備を終了させていた。

ところが、被告は、同年八月二日の役員会の席上で、専務取締役が退任の意思表明をした結果、本件施設を担当する役員がいなくなったという内部的な理由のみで契約締結を拒否し、しかも契約締結をしないことは右役員会において決定していたにもかかわらず、原告に対しては右事実を伏せて、いたずらに原告を不安定な状態においた。

被告の右のような一方的な契約締結の拒否は、信義則違反または契約締結上の過失にあたるものであり、被告は原告に対して、これに基づく損害を賠償すべきである。

(二) 被告の反論

ナカ工業は、原告に依頼されて被告に本件施設に出店するよう売り込んで来た者であって、被告側の仲介人ではない。

被告は、本件施設の建物外観だけでなく、建物の構造及び付属設備までわかる資料・図面等を見せて欲しい、多量の食料品を取り扱うためには不可欠の冷蔵設備等の電気設備をつぶさに点検・調査させて欲しいとナカ工業に申し入れて来たが、ナカ工業は、右要請を原告が受け入れるための条件として、原告の用意する店舗出店申込書の書式に被告が必要事項を記入して原告に提出する必要があると説明し、右書式をファクシミリで送信してきた。このため、被告は右申込書に記入してファクシミリで返送したのである。

また、池栄青果が内装設備等を撤去したのは、原告との賃貸借契約が終了したためであり、被告が撤去させたのではない。

被告が出店を断ったのは、本件施設の商売上の立地条件の悪さにあった。即ち、施設が傾斜地上に存すること、来客用の駐車場が店舗から離れていること、土・日曜日に店舗・駐車場に乗り入れる道路が自動車で渋滞混雑すること、小田急線新百合ケ丘駅に近い割に店舗が目立ちにくいこと、店舗付近に広大な法務局用地があり、本件施設前の道路の人通りが少な過ぎること、等の事情であり、被告としては採算が到底とれそうにないと判断した。

しかしながら、これを断る場合、客観性の高い相手側の欠点の存在を明確に指摘するのを避けて、表面上は自分側の事情を理由とするように装うというのが、日本人同士の従来からのやり方ではないだろうか。

2 原告の損害

(原告の主張)

被告は、原告に対し、平成六年九月一日から賃料として一か月あたり二一〇万円を支払う旨の内諾をしていたところ、被告が契約締結をしなかったことにより、次の賃借人から賃料を受領できる様になった平成七年三月一日の前日までの間、本件施設に関して賃料収入を得る事ができなかったから、六か月分合計一二六〇万円の得べかりし利益について損害を被った。

従って、一二六〇万円及びこれに対する損害の発生時期の最終日の翌日である平成七年三月一日から支払い済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三  判断

一  争いのない事実に《証拠略》により認められる事実を総合すれば、本件事実経過は以下のとおりである。

1 平成六年一月二四日、池栄青果から原告に対し、同年七月二四日限り本件施設を明け渡す旨の通知があった。

2 同年二月、池栄青果から、株式会社丸正エスティサービス(以下「丸正」という)が、池栄青果撤退のあとに本件施設を賃借したいと希望している旨の紹介があり、原告と丸正間の賃貸条件、池栄青果と丸正間の内装・造作等買取額等についての交渉がはじまった。なお、他にも数社の出店希望があった。このころ、ナカ工業の小田切専務取締役(当時)は、本件施設の一部が閉まった状態であることに気付き、原告代表者に、右部分の賃貸予定の有無を問い合わせ、同人から業種や内容によっては検討してもよいとの回答を得た。

3 同年三月ころ、小田切は、知り合いの後藤商店の社長後藤某(以下「後藤」という)を通じて、右の件を被告に話し、その後、西本らは、小田切と後藤とともに本件施設の下見をした。なお、小田切は、一〇数年前に被告の柿生店出店について仲介人となったことのある者である。

4 同年四月七日、ナカ工業から原告に対し、被告が出店を希望している旨の連絡があった。

同月九日、被告代表者及び西本が、小田切と後藤とともに、本件施設を視察した。原告代表者と被告代表者との間に、賃料坪あたり月八〇〇〇円との話があった。

同月一七日から同年五月七日まで、小田切は入院していた。この間の同年四月二五日、ナカ工業の小林部長が、店舗出店申込書の書式を被告に対し、ファクシミリで送信し、その後、西本が被告代表者に口頭で了承を得たうえで右書式の保証金欄に五〇〇〇万円と賃料欄に二一〇万円と記入して被告代表者印を押したものをファクシミリでナカ工業に返信した。

5 同年五月一〇日、小田切から原告に対し、被告が池栄青果から譲り受ける内装・設備等の範囲を知りたがっているとの連絡があった。

同月二五日、原告の業務部長である井沢は、小田切に対し、右の件に関して被告と打ち合わせ日時を設定するように依頼した。

同月三〇日、被告代表者、西本及び小田切が原告方を訪れ、本件施設を視察したうえ、内装・設備関係の処理について打ち合わせをした。その際、被告から原告に対し、池栄青果の什器類のほとんどは使用できないから全部撤去してよい、買い取る場合は什器と関連設備を併せて五〇〇万円程度としたい、什器等と設備の処理について池栄青果と交渉を始めたい、玄関側の右側の壁を撤去して搬入口としたい、などの要望があった。

6 同年六月二日、池栄青果から原告に対し、池栄青果と丸正との間の内装・設備等の売買に関する交渉が妥結したこと、丸正の専務取締役が同月四日に原告事務所を訪問することなどの連絡があった。

同月三日、井沢は、小田切に対し、原告は丸正の出店を断る予定であり、同月四日に丸正にその旨伝える予定であること、従って、被告の出店意思の最終意思の確認を求めたいことを伝えた。このころ、小田切は西本に対し、他にも賃借希望者がいるから出店の明確な意思表明が欲しい旨伝えた。

同月四日、小田切から井沢に対し、小田切が被告代表者から、内装の折り合いがつけば出店する旨の明言を得た旨の連絡があった。また、小田切が被告から出店申込書を徴することを約束した。このころ、既に保証金額と賃料額は決まっていた。他方、原告は、丸正に対し、出店を断った。

同月七日、池栄青果から内装等の代金額について提示があったが、高額であったため、原告は被告に取り次がず、再考を求めた。また、株式会社イーストジャパンから本件施設への出店希望があったが、原告は既に決定済みであるとしてこれを断った。

同月一二日、池栄青果から井沢に対し、内装・設備関係の譲渡代金額を三〇〇〇万円とする旨被告に伝えるよう依頼があった。しかし、井沢は右金額が高額すぎると考えて被告側の態度を池栄青果に説明し、他方、西本に対し、右金額を二五〇〇万円と取り次いだ。これに対し、西本は、什器備品のほとんどが不要であるなどと述べたうえ、今後は被告と池栄青果とで直接交渉したい旨述べた。

同月一七日、井沢は小田切に対し、被告の出店意思の確認について再度念を押した。他方、被告代表者及び西本が池栄青果と什器・内装設備等の譲渡に関する協議を行った。右協議の直後、被告代表者らは、原告に対し、池栄青果の主張する代金額が過大であり、被告としては五〇〇万円が限度であると考えているなどと報告した。

同月二〇日、井沢は小田切に対し、被告から正式に出店申込書を取り付けるなど契約締結前段階の手続を進めるように指示した。

同月二一日、小田切が、被告からナカ工業にファクシミリで送信された「店舗出店申込書」を原告事務所に持参した。右申込書(ファクシミリ送信によるもの)には、被告代表者の記名押印があり、保証金五〇〇〇万円、賃料二一〇万円との記載があった。また、この日、被告の依頼した内装業者が本件施設を調査した。

7 同年七月二日、西本が電気工事人を伴い、本件施設を点検し、アイランドケース以外の什器備品は不要であるとの見解を示した。

同月九日、池栄青果と被告は本件施設において、内装設備に関する最終交渉を行った。

同月一一日、池栄青果から原告に対し、被告に内装・設備等は一切不要と申し渡されたため、内装・設備等を全面撤去することになったとの報告があった。丸正が賃借人となっていれば、相当額で内装・設備等を売り渡す約束もできていたのに、被告になったため、売り渡しができないうえ撤去費用まで負担する必要が生じ、池栄青果は遺憾であった。

同月一二日、原告は、東京電力株式会社に対し、被告を使用者とする自家用電気使用申込みをした。なお、被告は、同年一〇月一一日に至り、東京電力株式会社からの請求に基づき、本件施設の点検等の為に消費した電力の使用料金として一万四二八九円を支払った。

同年七月一三日、原告と小田切は出店契約書の条項について協議した。

同月一八日、池栄青果は内装等の撤去工事を開始した。

同月一九日、原告は被告との契約書の条項を固め、小田切に対し、契約書の書式を示して、契約締結の段取りを進めるよう依頼した。

同月二一日、原告は、他の契約の例を見本に、小田切と保証金の扱いについて再度検討した。この日、本件施設において、池栄青果の撤退に被告代表者が立ち会った。そのあと、被告代表者は原告事務所に来社して、井沢の早期オープン要請に対し、スーパーは八月の開店は妙味が少なく九月にしたいなどと述べた。また、出店契約につきナカ工業と契約内容を詰める作業を進めると述べた。

同月二五日、原告は、池栄青果から本件施設の明渡を受けた。

同月二六日、原告は、小田切からの提案を受けて、弁護士と協議のうえ、契約条項のうち保証金の償却に関する条項の一部手直しした。なお、小田切は契約書の草稿について西本と数回協議している。

同月二八日、原告は小田切に契約書の書式を手交した。

同月二九日、小田切は、右契約書の書式を被告に届けた。被告の依頼した内装業者が本件施設を調査し、原告代表者から建物竣工図、電気設備竣工図、設備竣工図を預かって帰った。

8 同年八月一日、原告が契約締結の進行状況について小田切に問い合わせたところ、被告は明白の役員会で決定するとのことであった。なお、小田切は、西本から役員会では契約条項の最終的な確認をする旨の話を聞いていた。

同月三日から五日、原告が小田切に問い合わせたところ、被告と連絡がとれないとのことであった。

同月六日、小田切から原告に対し、被告が出店できなくなり、契約締結ができないとの報告があった。被告の小田切に対する説明では、被告の専務(専務取締役西本岩蔵のこと、同人は西本の父である)が役員会の席で急に辞任する旨述べた、専務はあざみの店、柿生店等を取り仕切っており、同人がいなくなると役員のやり繰りがつかず、当初は本件施設の担当者に常務をあてる予定でいたのにこれができなくなり、新規出店ができないとのことであった。

同月九日、原告が小田切に問い合わせたところ、被告の専務不在で面会できなかったとのことであった。しかし、同日、被告から依頼されたという電気工事人が工事見積の為に原告方に来社し、本件施設内部を点検した。

同月一一日、井沢は小田切から、被告の専務はスーパーの経営に携わっていないし、すぐに辞めるとは言っていないと聞いたとの連絡を受けた。

同月一三日、原告が小田切に問い合わせたところ、西本の話では要領を得ないので、もう一度小田切が被告代表者に会って話すとのことであった。井沢は、小田切に対し、他のテナントも不審がっており、被告に絶対に出店させるよう要求した。

同月一四日、小田切が被告代表者に面談したところ、同月二日の役員会において専務が引退を表明したことにより本件施設における開店の構想が崩れてしまった、専務引退により新規開店はおろか現状維持すら困難な状態に陥るおそれがあるので、本件施設における出店は断念せざるを得ないと被告代表者は考えている、ナカ工業にも迷惑をかけたから他で埋め合わせをするとの話であった。

同日午後八時、小田切は原告事務所に来社して右の報告をした。井沢は、小田切に対し、出店が絶対に不可能ということであれば覚悟せざるを得ないが、まず、被告代表者から正式に原告に回答すべきであること、被告は原告に損害を賠償すべきであることを伝え、なお、ナカ工業も早急に次のテナントを原告に紹介するようにと述べた。

同月一八日及び一九日、原告から被告代表者に連絡をとろうとしたが、連絡がとれなかった。

同月二〇日、井沢が被告代表者に電話で連絡することができた。被告代表者は、突然専務が引退することになり新規出店は不可能となった、ご迷惑をかけて申し訳ないなどと述べた。

9 同年一〇月四日ころ、原告は、やむなく再度丸正と出店契約を締結した。仲介は小田切が代表者となっているオダギリハウジング株式会社が行った。原告は、保証金二〇〇〇万円、賃料月一八〇万円との丸正の要請を受け入れざるを得なかった。丸正は、原告からの突如の申し入れで準備が整わなかった等の事情ですぐに開店することができず、平成七年三月分から賃料を原告に支払っている。

なお、被告の専務取締役西本岩蔵は現在も被告を辞めることなく勤務している。

二  以上のとおり、被告は、ファクシミリ送信によるもので原本は渡していないものの、保証金と賃料の記入があり、被告代表者の印を押してある店舗出店申込書を原告あてに提出していること、池栄青果は、被告があとのテナントとしてはいることを前提として内装・設備等の買い取り交渉を行っていたこと、右内容につき被告側からも原告に報告していること、被告の依頼した内装業者が度々本件施設を訪れて、工事の検討を行っていること、被告代表者や常務取締役である西本も度々本件施設を訪れて原告代表者や井沢と面談しており、その間、契約締結に向けて否定的または不確定であるかのような言動があった形跡がないこと、等の事情が認められるのであり、遅くとも平成六年六月中には、原告と被告とは本件施設の賃貸借契約につき契約締結準備段階にはいっており、原告が将来賃貸借契約が締結されるものと信じて行動することは被告にとってもたやすく予想されるところであったと言うべきである。ところが、被告は、本件施設を賃借するかどうかは未だ不確定であることなどを、小田切や原告側に全く伝えることなく、同年八月二日の役員会で出店しないことを決定したのちも、これを小田切や原告に直ちに伝えることなく、その後も専務が辞任することになったためなどと虚偽の理由を告げていたものであるから、被告には、いわゆる契約締結上の過失が認められ、原告が将来賃貸借契約が締結されるものと信じたことによって被った損害を賠償するべきである。

三  これに対し、被告らは、店舗出店申込書は、小田切から本件施設の正確な図面を見せてもらうために必要だと言われて記載したものにすぎないと主張し、証人西本はその旨証言するとともに、店舗出店申込書をナカ工業に送信したときには、本件施設を借りるかどうか分からなかったと証言し、被告代表者も西本からその旨報告を受けていたと供述する。しかしながら、書面には何らそのような留保事項は記載されておらず、ファクシミリ送信によるものとはいえ、その体裁上、被告が保証金五〇〇〇万円、賃料二一〇万円で本件施設への出店を申し込んだと受け取るのが自然であるうえ、証人小田切が、店舗出店申込書の記入前のものはナカ工業の小林部長が被告にファクシミリで送信したものであり、小田切は図面と引換えであるというような申し入れはしていないと証言していること、証人井沢も引換えに図面を渡すとの申し入れはしていない、平面図は当初から渡していたし、他の図面も求められれば当初から渡していた旨証言していることに照らすと、前記西本の証言及び被告代表者の供述部分を直ちに信用することができない。

また、被告は、出店を断った理由は本件施設の立地条件の悪さであった旨主張し、証人西本は、立地条件の問題点として、駅につながる通路から本件施設への高低差が五メートルくらいあること、すぐ近くの空き地に法務局ができるという噂があり、それでは一般の客が来ないのではないかと危惧されたこと、土曜、日曜の搬入路が渋滞していること、近所に被告の柿生店があるため客がだぶってしまうということであると証言し、被告代表者も、同様に供述する。しかしながら、出店にあたって、立地条件を調査するのは当然のことであり、近隣や通路の状況は、容易に調査できることであり、また、近隣に出来るのは法務局だけではなく、上層が公務員宿舎となる合同庁舎であり、そのことも平成六年四月の段階で調べればすぐに分かったと思われること、被告として立地条件に危惧する点があれば、その点を調査中であると原告側に述べることは全く差し支えないし、被告の指摘する問題点は格別原告を不快にさせるような内容ではないと思われること、仮に相手方に直接伝えるのがはばかられたとしても少なくとも仲介をしていた小田切に伝えておくことは当然であるし必要なことであると思われるのに、小田切や原告側にそのような話がなされた形跡が全くないことなどからすれば、右西本の証言及び被告代表者の供述部分は直ちに信用することができないし、仮に、出店を断った理由が、本当に本件施設の立地条件の悪さであったとしても、そのことを理由に、損害賠償責任を免れることはできないと言わざるを得ない。

四  そこで、原告の被った損害について判断するに、一記載のとおり、原告は、被告が平成六年九月一日から賃料月二一〇万円で本件施設を賃借すると信頼して行動し、引き合いのあった丸正他数社からの申し入れを既に断っていたものであって、結局丸正との契約締結により同社から受領できる様になった平成七年三月一日の前日までの六か月間の賃料相当分一二六〇万円の得べかりし利益について損害を被ったと言うべきである。

五  以上によれば、原告の請求には理由がある。よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 古閑美津惠)

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